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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)87号 判決

一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続、発明の要旨並びに審決の理由の要点に関する事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、右審決に原告主張の取消事由が存するかどうかについて判断する。

原告は本願発明が大量の潤滑剤(液体)をローラーとシートの間に介在させて流体力学的くさびをつくり、この潤滑剤(液体)による圧力伝達により一段のロールでシートを圧延するのに対し、引用例の方法が、少量のシリコーン離型油を離型ないし滑り剤として使用し、三段以上のロールでシートを圧延する点に両者の差異がある旨を主張して、両者が同一であるとした右審決の判断を攻撃する。

しかしながら、本願発明の要旨に成立に争いのない甲第四号証(本願出願公告公報)を参酌しても、本願発明においては「ポリオレフインのシートを……圧点において潤滑剤で被覆」することを構成要件としていても、これをもつて、原告主張のように大量の潤滑剤(液体)を使用すること及びその使用がシートに圧力を加えるためであることを集約して表現したものであると解することはできず、他に大量の液体潤滑剤を使用することが必須の構成要件として規定されていることを認むべき手掛りはない。もつとも、前出甲第四号証によれば、本願出願明細書中、発明の詳細な説明に「圧延ロールのニツプに大量の液体が存在して始めて、一回の操作でフイルムの厚みを元の<省略>以下になしうる充分な圧力が得られること等の新知見に基き本発明に到達した」との記載があるが、同時に「潤滑剤は液体、グリース又はステアリン酸ナトリウム、グラフアイト等の如き固体である。」との記載があるのに圧延ロールのニツプに存在する潤滑剤だけは液体でなければならないとの記載がなく、加えて、「ロールの間を通るポリオレフインの表面を被うために充分な量の潤滑剤が使用される。これは、噴霧、ウイツク(wickしみ込ませる)、浸漬、塗布等によつて行うことができる」との記載があることに照らして考えると、前記のような新知見に関する記載だけでは、本願発明において使用される潤滑剤の種類及び分量を推論しうる限りではない。したがつて、本願発明における潤滑剤の用法が原告主張のように流体潤滑に属する用法を取入れ、大量の潤滑剤(液体)によりローラーとシートの間に流体力学的くさびを形成させ、これによる圧力伝導を圧延の手段とするものであることを肯認するに足る論拠は全くないといつて妨げない。そして、本願発明における潤滑剤については右のようにその種類が特定されていないから、摩擦を減少させる物質であれば足りると解するのが相当である。

一方、成立に争いのない甲第五号証(引用例)には、未配向のポリエチレンフイルムを一方向に少なくとも三つの連続的な段階でロール処理し、これによりフイルムの厚さを連続的に減少させて、その配向を行うことを構成要件とするフイルム処理方法が記載されているほか、その実施例において、少量のシリコーン離型油が滑り剤として添加されたこと及びこれに基づく作用効果を示すため、一段階ロール処理の方法と五段階ロール処理の方法との対比が記載されているが、右ロール処理の対比についての条件は処理の回数の点を除いては同一であると認められるから、引用例には一段階のロール処理の方法においてシリコーン離型油を滑り剤として添加したことが一応記載されていると解するのが相当である。そして、その記載から推すときは、右実施例においてはシリコーン離型油を滑り剤として作用させるため、フイルムとロールの接触面全面に存在させたものであつて、その場合、シリコーン油はロールとフイルムの接触点ではフイルムを覆う状態になつていると解され、本願発明において、圧点すなわちフイルムがロールで圧延される時点で潤滑剤がフイルムを被覆している状態と格別差異がないといわざるをえない。なお、シリコーン樹脂が潤滑性を有するため摩擦を減少させる潤滑油として使用されるものであることは本件口頭弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、本願発明における潤滑剤からシリコーン油が排除されるべき根拠はない。

叙上の次第で、本願発明と引用例との間に原告主張の構成上の相違が存在するとは考えることができないから、右審決には事実認定の誤りに基く原告主張のような違法はないといわざるをえない。

三 よつて、その取消を求める原告の請求を失当であるとして棄却することとする。

〔編註〕本願発明の要旨および審決の理由の要点は左のとおりである。

(発明の要旨)

本願発明の要旨は、次のとおりである。

ポリオレフインのシートを、該重合体の疲れ温度以下の温度において、かつ、シートの厚さを、一回の通過において少なくとももとの厚さの<省略>に減少せしめるに充分な圧力のもとに、圧点において潤滑剤で被覆しつつローラー間を通過せしめることを特徴とする透明なポリオレフインのフイルムを製造する方法。

(審決の理由の要点)

そして、右審決は次のように要約される理由を示している。

本願出願前国内に頒布された特許出願公告昭三三―六、四八六号公報(以下「引用例」という。)には「ポリエチレンフイルムを一方向に少なくとも三つの連続的段階でロール処理する方法」の発明が記載され、これについて「そのフイルム処理に当たり、フイルムの温度を室温ないしポリエチレンの結晶溶融温度の上限の範囲内に保持すべきこと及び少量のシリコーン離型油を滑り剤として添加すること」との説明とともに対照例として「一回のロール処理を行つて、もとのフイルムの厚さの<省略>以下に加工する方法」が示されているから、ポリエチレンフイルムを室温ないしその結晶溶融温度の上限の範囲内に保持し、シリコーン離型油を添加しながらロール処理を一回行つてこのフイルムの厚さの<省略>以下の厚さのフイルムに加工する方法が記載されていると認められる。これに対し本願発明の要旨は前項のとおりであつて、その方法における加工温度すなわち重合体の疲れ温度以下というのはポリエチレンの場合、抗張力が14~20psiであるような温度以下であると説明されているが、実施例その他の記載から判断すると、引用例に記載された加工温度の範囲と実質的に異ならず、また、本願発明の潤滑剤でフイルムを被覆する時点に関する技法も引用例に記載されたシリコーン離型油をロール処理の直前に添加する方法と異ならない。したがつて、本願発明は引用例のものと同一であるから、特許法第二十九条第一項第三号の規定により特許を受けることができない。

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